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創立50周年記念、今は亡き創業社長の思い出

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まぶしい夏の日に、もみじマークの白いレクサス

創業社長

高級車にもみじマーク!?

そこには白のレクサスが。貼り付けられたもみじマークが目を引き、なんとも絶妙でした。ドアを開け「いや〜、突然申し訳ないね〜」と笑顔。さきほどの電話での剣幕ぶりとは打って変わって、なんともいえない穏やかな表情で迎えてくださいました。その瞬間に、この方は絶対「社長」だと確信しました。

駐車場をご案内し、打ち合わせロビーでの初めてのご面談。名刺交換から始まります。そう、やはり社長さんでした。会社の創立記念に、高級な記念品をお作りになりたいということで、社長自らが足を運んできてくださいました。

遠いところから・・・、といっても実は新宿区から、ここ港区までということが判明。しかし暑い中の運転、ご高齢の社長さんにとっては「遠い所」だっだに違いありません。いえ、今思うとあれは、追い返されない?ための、社長の無意識の戦略だったのかもしれませんね。

81歳、創業社長のオーラ

まずは、年齢の話から始まります。「いくつに見えるかね〜」と社長。こちらは内心(75歳くらいかな。いやここは少し若く言っておかなくては)ということで、「70歳くらいでいらっしゃいますか?」と申し上げると、「いやいや、もっと上〜」「え〜、お若く見えますよね〜」「そうかね(ニヤリ)。ホントはね、もう引退しなきゃいけない歳でね。今年で引退だよ」と、ほのぼのとした会話が続きます。

結局、社長さんは81歳(当時)ということがわかり、会社の創業者でいらっしゃいました。2002年には勲章も授与されています。昭和の時代を駆け抜け、平成を生き抜いてきた、社長らしい独特のオーラがとても印象的です。9月に創立50周年記念を迎えられ、社員、お取引先のお客様、そして長い間お世話になった方々に、記念品を贈呈したいというお話でした。

グラネス自慢の本革ウォッチトレーや、名刺入れなどのサンプルを手に取ってご覧いただきながら、製品や素材の説明をさせていただきました。

和やかな商談

まずは本革ウォッチトレーをお気に召したようで、「これは100個でいくら? 300個では?」と、お値段についての話になってきました。「もしご予算的に難しい場合は、ピッグスエードを使ってお作りすれば、単価を下げることが出来ます」と申し上げると、「いや〜、安くても豚は要らんよ!笑」。と社長。

通常、商談の中では価格交渉に入る時が最も緊張感漂うのですが、ピッグスエードをブタとおっしゃった社長のひとことに、つい笑いが堪えられなくなり、和やかに話が進みます。「たしかに、お肉も豚より牛の方が高級ですよね」などなど・・・。

結局、記念のアイテムは社員の方と相談して最終決定したいということで、サンプルを一日お貸出しすることになりました。「明日必ず、お返しに持ってくるからね〜」と笑顔で帰られ、翌日のお返事を待つことになりました。

二日目の打ち合わせ

さて翌日。灼熱の太陽が照りつける午後、この日は車をビルの正面につけていただき、お迎えをいたしました。白いレクサスがまぶしく目を惹きます。

「ずいぶん、迷ってしまってね〜」と、サンプルの入った袋を提げながら、社長さんの登場です。

「このウォッチトレーは決まり。あとね、わたしは、このトラベルケースがいいと言ったら、みんなに反対されちゃってね〜。みんな(男性社員)は、名刺入れがいいって言うし、女子(女性社員)は、事務職で外に出ないから、名刺入れは要らない、万年筆ペンケースがいいって言うし・・・」など、楽しそうに悩まれながら、結果的にはお客様用に本革ウォッチトレー、社員用に名刺入れ万年筆ペンケース、そして社長ご自身の独断でトラベルケースもお作りになることが決定しました。

それぞれのアイテムに刻印するロゴデータや刻印イメージについては、後日担当の方とやり取りをすることになりました。

創業者の想い

その後のことです。なぜか自然に創業時のお話や、これまでのことを断片的に聞かせて下さいました。

昭和35年9月の創業から半世紀。

社長の「苦労してね・・・」のひと言の重みに、感無量の思いがこみ上げてきました。

最近仕事をしていると周囲はみんな年下。この人は一回り下?この人は二回り下?という状況が日常茶飯事です。そんな私でも、この社長の前では完全な若輩者。ただただ頭が下がります。

さりげない言葉が、勉強になり、心に刻まれていくのです。そして、さらにさりげなく、あたたかく、「まだまだお若い。頑張ってね」と私に仰ってくださいました。

50年という歳月の重み

お帰りになる前、社長は椅子から立ち上がり、突然本革ウォッチトレーのサンプルの箱を高く持ち上げました。そして深々とお辞儀をし、お客様に記念品を差し上げる時の身ぶりをしてくださったのです。

「受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す。お世話になった方々に、”あの時はありがとうございました”と、こうやって記念品を献上するからね」と。

50年という歳月の重みと、創業者の深い想い。たかが記念品、されど記念品。この小さなトレーや名刺入れに、50 年間の汗や苦悩、喜びや涙、目に見えないかけがえのない一つ一つが込められているのだと感じました。

この仕事に携わらせていただいていることへの、感謝と誇りと責任を感じさせてくださった瞬間でした。

心の中に生き続けるもの

私は車が見えなくなるまでお見送りいたしました。まぶしい夏の光を浴びて去っていく車の後ろ姿。

出会いから二度目にして、それが最後となりました。

あの日からちょうど9年後、2019年の夏、創業社長が他界されたことを知りました。

創立60周年を迎える1年前でした。

あの日、もみじマークの白いレクサスから現れた社長の笑顔。そして最後に残していかれた、あのお姿とお言葉は、GRANESS(グラネス)の記念品の原点として、本質として、今もなお心の中に生き続けています。

「受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す。お世話になった方々に、”あの時はありがとうございました”と、こうやって献上するからね」

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この記事の執筆者

GRANESSコーポレートギフトを運営するグラネス株式会社の代表取締役兼ブランドマネージャー。過去には皇室御用達の服飾デザイナー秘書を務め、永田町アトリエで政財界夫人のオートクチュール応対などの経験を積む。首相第一秘書官夫人、大手電機メーカー社長夫人などを担当。また、故第三代最高裁判長の接客等も務めた。ブランディング全般及び法人営業、生産管理を担当。応対した企業数は1,000社を超える。

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